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BOOK

虐待と脳の関係についてわかりやすく説明された一般向けの解説書。被虐待によりダメージを受けた脳の治療から、虐待の予防までを広く解説

虐待が脳を変える
脳科学者からのメッセージ
友田明美・藤澤玲子:著
新曜社

あらすじ

脳科学者である著者が「虐待と脳の関係」を広く伝えようと、学術書をよりわかりやすく紐解いた解説書。
基本的な児童虐待の定義から虐待の種類、アメリカで注目されてから始まった虐待の歴史、被虐待によって引き起こす障害や精神疾患の種類と虐待との相関性などを解説するほか、被虐待者の脳画像や聞き取り調査など科学的検証に基づいた虐待の影響を脳科学の見地から紹介している。
さらに著者が一歩踏み込んで、虐待を予防するにはどうしたらいいかについて語るほか、育児に関わるすべての養育者へ向けたメッセージも。

ニャム評

「子どもの脳を傷つける親たち」の著者、友田明美さんによる「児童虐待」の解説書です。

「子どもの脳を傷つける親たち」
虐待、マルトリートメントによって子供の脳が変形している現実。
衝撃の研究結果をもとに子供との適切な関わり方を紹介

もとは医療関係者向けに発刊した「いやされない傷」という学術書があり、それを一般にわかりやすく作り直したということで、児童虐待についておおよその情報がこの一冊に凝縮されているのではないかと思います。

「子どもの脳を傷つける親たち」では「不適切な養育」という意味の言葉「マルトリートメント」を主に使用していましたが、一般に浸透せず、なじみにくいということで本書ではあえて「虐待」という言葉で統一したそうです。

では、虐待とはどんな行為を指すのか?
これはぜひ本書を読んで学んでください。

・身体的虐待(フィジカル・アビュース)
・性的虐待(セクシャル・アビュース)
・ネグレクト
・精神的虐待(バーバル・アビュースなど)
・ドメスティック・バイオレンスの目撃
・子ども医療虐待(メディカル・チャイルド・アビュース)

これらを項目別に紹介しています。
驚かれるかもしれませんが、体罰や暴力などを直接受けなくとも、暴力を見せるだけでも虐待に成り得るそうです。
父親が母親を殴ったり蹴ったりする、また祖母が母親を蔑んだりいじめたりするのを子供に見せるのも虐待です。
いったいどこまでが虐待なのか戸惑いますが、本書を読むことで虐待の正しい理解がもっと進むことを願います。

著者の専門分野である脳科学をベースに、虐待と脳の関係についても詳しく述べられています。

・愛着障害
・ADHD
・ASD
・うつ病
・不安障害
・心的外傷後ストレス障害(PTSD)
・解離性障害
・境界性パーソナリティ障害
・物質関連障害および嗜好性障害群
・非社会性パーソナリティ障害

これらの障害や精神疾患について、実際に被虐待者へアンケートを取り、脳画像の診断と併せて解説しています。

また、「なぜ虐待により脳が変化したのか」については、コルチゾルの分泌を指摘しています。
コルチゾルとはストレスを受けたときに副腎皮質から分泌されるホルモンで、ステロイド剤としてもよく知られています。
このコルチゾルは大変優秀な薬で、ダメージの回復に劇的な効果をもたらすといいます。
しかし、継続的に虐待を受け続けるとコルチゾルも分泌され続け、長期的に多量に分泌されたコルチゾルは脳の海馬を破壊するのだそうです。
このほか、シナプスの刈り込みがうまく行われなかったことや、視覚野(舌上回)の容積が小さい、神経回路が非常に密であったり反対にスカスカであるといった脳の具体例と虐待の関係などが詳しく解説されています。

私は虐待者(虐待をする者)の行動がどうしても理解できずにいるのですが、本書の一節で少し理解できたように思いました。

たとえば、親がいつも子どもに手を上げる。
すると子どもはいつもおびえ、怒られそうな件に関してはうそをつくようになる。
うそをつくことに対して親はまた手を上げる。
手を上げられるのでまたうそを上塗りするようになる。
長い時間の間に、子どもはなぜうそをついているのか自分でもわからなくなる。
うそをついていることすらわからなくなることもある。
親のほうも、子どものうそをやめさせるために手を上げているのだ、「しつけ」のために手を上げているのだ、と思い込んでしまう。

まさに悪循環の極みですが、要するに「子供を抑圧したり力でねじふせようとすればするほど悪くなっていく」ということです。
さらに、なぜこのような不幸な状況が生まれるのかについても述べています。
核家族化が進み、子育てが孤独な「孤育て」になってしまっている。
誰も助けてくれない環境で、「子どもをいかに優秀に育てるか」というところだけが注視されてしまう。
それによって追い詰められていく養育者が増えているということです。

本書の166ページ、16章「治療から予防へ」では、育児経験のない男女が幼児とふれあう前と後で親性(親になる準備ができているか、育児に積極的か)が高まるかどうかという調査を紹介しています。
幼児とのふれあいを通じて被験者は幼児への好感情および育児への積極性が高まったという結果をふまえてこう述べています。

人間の養育脳-子どもを愛し世話する能力のある脳-は、子どもと触れ合うことによって喚起され、育っていくのである。
これは、女性は生まれながらにして母親であるという神話を覆す結果である。

つまり、「人間は子育て本能をもともと持っているわけではない」、「女性にだけ母性本能があるというのはうそ」ということです。
これは前時代的思考を持つ人、そしてすべての男性にぜひ読んでもらいたい一文です。
著者の研修室では、福井県永平寺町で出生した子の発達に関する調査を行っているそうで、その調査の中間解析では
「父親が家事や子育てに参加する割合が多いほど、母親のメンタルヘルスは良好であり、そのため子の社会性が発達している」
と判明しているそうです。
「赤ちゃんのお世話なんて自分にはできない、さすが女性」などと言っている男性は、ただ単に育児参加を放棄しているだけということになってしまいます。
そのような男性が、家庭内で配偶者や子供から信頼されるかどうか。
本当に危機感を持って一考すべき事態だと思います。

このほかにも紹介したい内容は山のようにあって、気づけばふせんが50枚くらい貼られていました。
だったらもう全部読めばいいですね。笑
百聞は一見に如かず、ぜひこの本を手に取ってみていただきたいです。

ふせんだらけで、電車内で読むのがちょっと恥ずかしかったです笑

人間が社会的動物として生きる以上、知っておかねばならないことがこの本には記されています。
もし、「他人のことは自分には関係ない。他人の苦しみなど知る必要はない」と言うのであれば、それはそのまま自分に跳ね返ってくる言葉だということを覚悟を持って肝に銘じねばなりません。
人間はほかの動物のようにひとりで生きることは不可能です。
互いに助け合うことで自分の命をつないでいるのです。

そして本書の最後には、子供を養育しているお母さんへのメッセージも記されていました。
そこには、脳科学者としてではなく、ご自身も育児を経験したからこそのやさしいまなざしがありました。
虐待、マルトリートメントは目をそむけたくなる事象です。
そして、自分がしていることは虐待かもしれないと考えるのは、とても恐ろしいことだとも思います。
しかし、子供の成長は日々進化していきます。
もしも不適切な養育をしていたのであれば、少しでも早く修正することが子供にとって、そして養育者自身にとって幸せへの一番の近道だと思うのです。