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BOOK

勇敢で賢い9歳の少年エルマーとちいさな竜の、友情と冒険の物語。ストーリーの緻密さ、挿し絵の美しさ、そして日本語訳の素晴らしさを子供も大人も堪能してほしい

エルマーのぼうけん
ルース・スタイルス・ガネット:作
ルース・クリスマン・ガネット:絵
渡辺茂男:訳
福音館書店

おはなし

エルマー・エレベーターはとてもゆうかんでかしこい9さいの男の子。
あるひ、エルマーはとしとったのらねこから、かわいそうなりゅうのはなしをききます。
「どうぶつ島」というとおいとおい島で、首にふといロープをくくりつけられ、どうぶつたちにつかまっているというのです。
エルマーはこのかわいそうなりゅうをたすけにいくことにしました。
お父さんのリュックをこっそりかりてきて、たくさんのにもつをつめこみます。
チューインガムに、ももいろのぼうつきキャンデー2ダース(24こ!)、わゴム1はこ、くろいゴムながぐつ、じしゃく、はブラシとチューブいりはみがき、むしめがね6つ、さきのとがったよくきれるジャックナイフ、くしとヘアブラシ、ちがったいろのリボン7本、「クランベリいき」とかいた大きなふくろ、きがえをなんまいか、それから、たくさんのしょくりょう。
たべものは、ピーナッツバターとゼリーをはさんだサンドイッチを25と、りんごを6つです。
みなとから「クランベリみなと」へいくふねにこっそりのりこんで、エルマーはしゅっぱつしました。
クランベリは「みかん島」のみなとまちで、みかん島のおとなりにどうぶつ島があるのです。
みかん島でであったりょうしのおじさんにどうぶつ島のことをきくと、おじさんはがたがたふるえてしまいました。
たくさんの人がどうぶつ島へ行ったけれど、だれもかえってこないというのです。
「おっかねえもうじゅうに、たべられちまったんだろう。」
おじさんのはなしをきいても、エルマーはへいきでした。
エルマーはみかん島のはしまで行くと、いよいよどうぶつ島へとむかいますが・・・

ここがおすすめ

1943年にアメリカで出版され、日本では1963年に発行された大人気のベストセラー絵本です。
読んだことがないという人でも、タイトルは聞いたことがあるのではないでしょうか。

なんといってもこの絵本の一番の魅力は、本を開いてすぐにある、見開き2ページの大きな地図です。
物語の舞台である「みかん島」(「みかんとう」と読みます)と「どうぶつ島」(「どうぶつじま」と読みます)の地図があり、物語の重要なポイントがすべて書き込まれているのです。
子供と一緒に読みながら、この地図を見返して「いまはここにいるんだね」「マホガニーの木ってここに書いてあるよ」などと位置関係を確認すると、子供は飽きることなく読み進めることができます。
物語を読む前から、この地図を見るだけでわくわくするようなことがたくさん書き込まれているんですね。
たとえば「どうぶつ島」の海岸には「みかんのかわ」と書いてあり、小さなオレンジの丸が点々とあります。
これだけ見るとなんのことやらと思いますが、絵本を読み進めると、このみかんの皮がたいへん重要な物語のカギだということがわかります。
そこで絵本の最初のページに戻ると、地図がいきいきと物語を語り出すように見えてくるから不思議です。

少年が竜を助けに行く、というだけでもわくわくしますが、この絵本が世界中でこれほど愛され続けているのはやはり、ストーリーの緻密さではないかと思います。
エルマーがリュックサックにつめる荷物、これが物語で思いもよらないような活躍を見せます。
輪ゴムや虫めがねやチューインガムがどんなふうに役立つか、読んでいて大人でも感心してしまいます。
それにしても、エルマーがどうして6個も虫めがねを持っているのか疑問に感じるのは、大人だけなのでしょうね。笑

また、この本の素晴らしいところは、渡辺茂男さんによる日本語訳です。
渡辺さんの訳書には「岩波少年文庫」シリーズや「おさるのジョージ」シリーズなどがあり、非常に多くの絵本・児童書を翻訳された方です。
そして、独特でユーモアあふれる日本語訳がほんとうに素晴らしい。
「きかんぼのちいちゃいいいもうと」という児童書が私は大好きで、新装版では酒井駒子さんが挿し絵を担当しているのですが、この訳も最高にユニークです。
子供にはこういう、ふだん耳慣れない日本語を聞かせることで、母国語の豊かさを教えることができると思います。
ほんとうに素晴らしいので、ぜひ声に出して読み聞かせてあげてほしいです。

蛇足ですが、我が家ではマスト読本と思い箱入りの絵本セットを購入したもののニャ娘の食いつきがすこぶる悪く、小学校1年生になったくらいで興味を示すかなと思って何度か「読んでみる?」と勧めてみたのですが興味ナシ。
そのうち興味を持ってくれたら・・・と思い、じりじりしながら待っていましたが笑、思いがけないところからこの物語に入っていきました。
学童クラブで指導員の方が読み聞かせをしてくれたそうで、しかもいきなり「エルマーと16ぴきのりゅう」だったためストーリー展開が全然わからず、「???」と思いながら毎日聞いていたんだそうです。
そして「エルマーのおはなし、うちにあったよね?」と本棚から探し出し、「エルマー」が三部作だったことを初めて知って「ああ!だからおはなしがよくわかんなかったんだ」と腑に落ちたようでした。笑

学童クラブで読み聞かせしていただいた経験で、読み聞かせが子供にとって貴重な出合いの場であることを改めて認識したとともに、大人が考える「正しい順番」が必ずしも子供にとって正解とは限らないんだなぁ、としみじみ思いました。
「エルマーと16ぴきのりゅう」は、「エルマーのぼうけん」三部作の最後の物語です。
ストーリーとしては「エルマーのぼうけん」でりゅうの子供を助け出し、「エルマーとりゅう」で家路を目指し、「エルマーと16ぴきのりゅう」で大団円を迎える、という流れなのですが、おそらく6歳の子供にとっては、いきなり竜が16匹も出てくるというおはなしに強いインパクトを感じたのではないかと思います。
そして、改めて順にストーリーを追うことで、エルマーの冒険譚を深く味わい、楽しんだようでした。
いまでは大のお気に入りで、毎晩「今日もエルマーね」が続き、二週間ほど繰り返し読み聞かせました。
私が家事に追われて「ちょっと待ってね」と言うと、待ちきれずに自分で読み進めていました。
いやぁ、買った本のもとが取れたってもんです。

ほんとうに素晴らしい物語は、子供たちを見たことのない世界へ連れていってくれる、魔法の切符のような存在です。
物語が長いから、途中で子供が寝てしまうこともありますよね。
それは、読み聞かせをする親にとって、世界一かわいい我が子が眠りに落ちていく瞬間を見守ることのできる、一日で一番幸福な時間でもあるのです。
どんなに時間がなくても、たった1ページだけでも、ぜひ読み聞かせをしてあげてください。
世界中の子供たちが毎晩、物語を聞きながら幸せな眠りにつくことを願っています。