BOOK

学校での過剰な競争やいじめというストレスに耐えきれず不登校になったとき、子供の身体はどうなっているのか。不登校は「なまけ」や「弱さ」ではないことを臨床的に解明した本

学校過労死 不登校状態の子供の身体には何が起こっているか
三池輝久・友田明美:著
診断と治療社

あらすじ

「過労死」は大人社会だけに当てはまる現象ではなく、学生・生徒たちの立場にもそのまま当てはまるのではないかーー
登校時間から部活などの課外活動も含めれば一日の活動時間は10時間近くになり、さらに試験のため家でも勉強を強いられ、息抜きをするひまもない子供たち。
そしてもっともストレスとなるのが、教室という狭い密室で競争させられ、落ちこぼれることへの不安感をあおられ、いじめなど陰湿な環境になりやすい「学校社会」である。

ストレスにより生体リズムを制御する中枢の機能障害が起こり、生体リズムに異常が生じ、疲労困憊状態によって引き起こされる「過労死」は、就労者のみに起きることではなく、学校生活に疲弊し不登校になっている子供たちも同じ状態であると本書では指摘している。
生体を守るため防御反応として学校へ行かれない状態となり、さらに脳の記銘機能が働かなくなる状態を本書では「学校過労死」と呼び、不登校状態の子供たちを臨床的に検査し、そのデータから子供たちの身体になにが起きているのかを解明。
「不登校はなまけや弱さではない」ことを科学的根拠に照らしながら解説し、問題の根本的解決へと導く。

ニャム評

センセーショナルなタイトルがまず目を引く本書ですが、これはおそらく子供たちに迫る危機的状況への緊急度を示す著者の思いが反映されたものではないかと個人的に解釈しています。
1994年の出版で内容にやや古さはありますが、「学校」という独特の場で生まれるストレスに関する具体的内容や対策といった根幹的な部分は時代の遅れを感じることがなく、それは残念ながら出版当時と現在にあまり状況の変化がないということでもあります。

著者はともに小児発達学を研究する小児科医で、子供の成育に関する著書を多く手掛けています。

これまで不登校といえば「本人の弱さ」「なまけ」など精神論で片付けられることが多く、その風潮はいまも根強くあると感じます。
本書ではその「世間」の認識を覆すべく、不登校状態の子供たちに様々な検査を行い、そのデータをもとに「不登校」を科学的に解明しています。
また、検査データから不登校状態になった子供たちを診断し、うつ状態や慢性疲労症候群の治療法を紹介しています。

個人的に心に残ったのは、「学校へ行くことを誰よりも望んでいるのは子供自身」ということでした。
いじめや過剰な競争によってストレスに潰されてしまった子供自身が、勉強の遅れに恐怖を感じ、学校というレールに戻らなければと強く思っているといいます。
まじめで責任感の強い子ほど、自分を追い詰めてしまったり余裕を持てなくなってしまうという負のスパイラルに陥りやすいのは、現代の余裕のなさも拍車をかけているのかなと感じます。

本書は一般向けの図書ではなく、治療者(医療関係者)向けに書かれた本ですが、タイトルのとおり「不登校状態の子供の身体には何が起こっているか」ということが克明に記されています。
また、親や教師が陥りやすい「根性論」を一掃し、検査による統計を根拠として不登校状態を解説し、その対処法を示しています。
不登校問題の関連本は星の数ほど出版されていますが、もしもいま、あなたが子供の不登校に悩んでいる養育者であったなら、この本を手に取ってみることを強くおすすめします。
心の支えになるようなやさしいなぐさめの言葉は、本書にはありません。
でも、学校に行かれなくなってしまった子供がどのくらい苦しんでいるのかということが、非常によくわかると思います。
それがわかれば、子供に無理をさせたり、子供の求めていることと反対のことを言ってしまうという間違いは起きないのではないかと思います。

残念ながら一般の書店ではほぼ取り扱いがないようで、中古などでしか見かけません。
私は居住地の図書館で借りました。
こういった書籍がデジタル化することで入手困難な環境がなくなることを願います。


学校過労死―不登校状態の子供の身体には何が起こっているか