BOOK

スカッと爽快になれるのは「倍返し」だけじゃない

陸王

池井戸潤:著

池井戸潤といえば「倍返し」で一世を風靡しました。
あのシリーズ(「オレたちバブル入行組」以下シリーズ化)も最高に面白いです。
ハズレなしの傑作なのでそちらもおすすめです。

基本的に彼の描く物語はだいたい同じ流れを汲むことが多く、「真面目な人間が細々と生活していくなかで危機的状況に陥り、苦難を乗り越えて起死回生のヒットを放つ」という、基本的にはハッピーエンド、勧善懲悪という筋が強い印象です。
掲題の物語もそのとおりで、スカッとした読後感を得られる作品です。

「陸王」というのは陸上用シューズの名前で、老舗の足袋屋が社運を賭してシューズの新規開発に取り組むというストーリー。
私自身はまったくの運動オンチで、100mも走れば息が切れるという鈍くささですが・・・
なぜか陸上の話が好きで、この小説もとても楽しみながら読みました。

陸上系の小説といえば、三浦しをん「風が強く吹いている」(箱根駅伝の話です)、佐藤多佳子「一瞬の風になれ」(高校生が陸上に青春をかける話です)も素晴らしいです。
人生を賭けて走るということは若さとイコールであり、そこには必然的に瑞々しさが伴うのかもしれません。

蛇足ですが、なにかの作品の巻末解説で、池井戸さんの人となりが書かれていました。
彼は大手銀行員として長く勤め、そこで得た経験と、見聞きした現実を基に執筆しているんだそうです。
彼の真骨頂である銀行モノは、まるで行内に自分が潜入したような錯覚をおぼえるほど、銀行の内部事情がリアルでわかりやすく描かれています。
そして「池井戸さんは、いつも怒っている」と。
世間で露見する様々な不祥事、それらにつねに怒っているんだそうです。
その怒りが彼の執筆の原動力なのだと。
そういう庶民的な正義感が、あのスカッとした作品を生み出しているんですね。
どんな物語にも「悪役」が出てきて、その悪人ぶりも徹底しているのがおもしろいです。
池井戸さんのなかで、悪人の実在モデルがいるんだろうなあ・・・って想像すると、ちょっと笑えます。