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BOOK

耳が聴こえず剣を振る力もない、小さく非力な王子の夢は「王様ランキング」1位になること。少年と影の成長物語

王様ランキング
十日草輔:著
ビームコミックス

あらすじ

ボッス王の王子・ボッジは耳が聴こえず、さらに剣を振ることもできないほど非力な少年。
そんなボッジはある日、町で不思議な生き物と出会う。
真っ黒な「カゲ」という生き物は、ボッジのお人よしな性格に付け込み、城から高価な服を毎日持って来させると、それを売りさばいて稼いでいた。
しかし、ボッジがお人よしなのではなく、周囲には笑みを絶やさぬよう振る舞いながら、じつはひとりで悔し涙を流していたことを知ったカゲは、それでもくじけないボッジのけなげさに胸を打たれ、ボッジの味方になると決意する。
この不思議な生き物は「影の一族」と呼ばれた暗殺集団の末裔で、幼いころに母を亡くしてからひとりで生き延びてきたのだった。
城内や町では能無しと陰口をたたかれ、それでもボッジはカゲの応援に支えられながら「王様ランキング」1位を獲得するため、立派な王になることを心に誓う。
しかし、父であるボッス王が早逝し、次期国王にボッジの異母弟であるダイダが選ばれることに・・・

ニャム評

「マンガハック」で連載中のマンガです。

「王様ランキング」とは、高名な騎士の有無、国民の多さや豊かさ、そして国王自身の強さなどを諸条件に各国の王をランキングするものです。
巨人のボッス王には第一王子であるボッジという息子がいますが、ボッジは両親が巨人であるにもかかわらず小さな体で、しかも子供用の剣さえ振れないという非力な子供でした。
耳が聴こえないため他人とのコミュニケーションも取れず、家臣や国民からはいつも陰口をたたかれています。
いつもぼんやり、にこにこしているボッジは無能と思われていますが、じつは唇の動きを見ることで話している内容を読み取ることができ、みんながなんと言っているのかはわかっているのでした。
人の前ではにこにこ微笑みながら、自室に戻るとこっそり涙を流しているボッジ。
それでも、ボッジは世界一の王様になるという夢を描き、けなげに生きてきました。
そんなボッジとカゲが出会い、ボッジのけなげさに胸を打たれたカゲはボッジの味方になると決意します。

この物語の一番優れているところは、登場人物の人間描写です。
著者の十日さんはこの作品が実質的なデビュー作だそうで、ざっくり言ってしまうと絵にあまり奥行きがなく、一見すると淡々としたイメージを受けます。
しかしそれだけに先入観を持つことなく読み進められ、そして物語が進むごとに少しずつ明かされていく人物たちの人間性や半生を読んでいると、こんなところに伏線があったのかと驚かされます。
とにかく登場人物それぞれが持っているストーリーに深みがあり、それを読み進めるほどに物語がどんどん奥深さを増していき、次はどうなるんだろうとページをめくる手が止まらなくなるのです。

もちろん主人公のボッジはけなげでかわいらしく、その一途さに心を打たれるのですが、とくに心に残ったエピソードはカゲの幼少時代の回想です。
これは十日さんもインタビューでお話しされていましたが、カゲとお母さんの別れがあまりにせつなく、読んでいて思わず号泣でした。
小さな子供のいる人が読んだら、これは120%泣きます。

「王様ランキング」十日草輔インタビュー
コミックナタリー
第1話から第8話までの試し読みもあります

単行本第2巻の巻末に収録されている書き下ろしマンガでは、ボッジとカゲが出会ったときのお話が描かれているのですが、そのなかでカゲがお母さんを思い出しながら

「この町は何個目かな
あれからずっと
町から町へ渡り歩き
ただ生きてるよ 母ちゃん」

ポツリと心の中でつぶやくシーンがあります。
なにげないつぶやきのように見えますが、お母さんが「自分の命に代えても子供だけは生き延びてほしい」と願った過去があるからこそ、「ただ生きてるよ」というカゲの虚しい心が読者の胸にせまるのです。

小さな男の子の成長物語、と一口に言い切ってしまうには、あまりにも物語が濃密で奥深い。
「マンガハック」でも読むことができますが、これは本を買って手元に置いておきたい作品です。
単行本収録の書き下ろしを読むことでストーリーの深みがいっそう増すのも見逃せません。
ニャ娘が読みたがっているので、そのうち自分で勝手に読んでくれるといいなと思い、部屋のそこらへんに転がしてあります笑
マンガのいいところは漢字にルビが振ってあるところですね。
大人だけが読むのはもったいない。