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BOOK

みえるとかみえないとか、違いがあるから人は興味深く面白い

みえるとか みえないとか
ヨシタケシンスケ:作・絵
伊藤亜紗:相談
アリス館

おはなし

宇宙飛行士の「ぼく」は、ロケットに乗っていろんな星の調査をしています。
ある星に着陸した「ぼく」は、その星に住んでいる宇宙人に遭遇しました。
この星の人たちは目が三つあって、前も後ろもいっぺんに見えるみたい。
ところが三つ目の人たちは、「ぼく」に目がふたつしかないことに驚いて
「キミ、うしろがみえないの?」
「ふべんじゃない?かわいそう!」
と言われてしまいます。
見え方が違うだけなのに、気を遣われた「ぼく」はなんだかへんな気持ち。

その星の人を調べていくと、生まれつき「後ろの目だけ見えない」っていう人もいました。
自分と同じ、後ろが見えない人と出会って、「ぼく」はなんだかほっとします。
自分が「当たり前」と思っていたことが、違う場所では「普通じゃない」と思われる。
さらに、三つ目の人たちのなかには、全部の目が見えない人もいました。
「見える人」と「見えない人」では、同じ世界にいても感じていることが全然違う。
それは、「別の世界」に住んでいるってことなんだろうか・・・

「自分」と「他人」の差異についてじっくり考える、子供から大人まですべての人向けの絵本。

ここがおすすめ

絵本を開いて読んでいたら、一枚の紙がはさまれていました。
「みえるとか みえないとか ができるまで」と書かれたリーフレットで、絵本を制作したきっかけについてヨシタケシンスケさんと伊藤亜紗さんが語った対談が掲載されています。

「みえるとか みえないとか」という絵本は、伊藤亜紗さんの「目の見えない人は世界をどう見ているのか」という本から生まれました。

視覚障害者が感じている世界と、いわゆる健常者が感じている世界は、ものの捉え方の違いによって「別の世界」がそれぞれの脳内に立ち上がってきます。
その「違い」を、ヨシタケさんは「お互いに面白がればいいんじゃないか」と思い、それを伝えるにはどうしたらいいか考えに考えて、宇宙人との遭遇という話になったそうです。

「人と違う」って、どういうことだろうとよく考えます。
子供が生まれてやはり気になるのは「他人と違う」ことによるからかい、いじめです。
私はちょっと変わった声質で、どこに行っても「癒し系」と言われてきました。
そのおかげでキレてもこわくないらしく(笑)、怒っているのに気づかれないことが多いです。
それは得なことなんですが、そう思えるまで自分の声がとてもきらいでした。
小学生のとき、録音した自分の声を初めて聞いて「これ誰?」と家族に聞いたら「ニャムだよ」と言われて頭をハンマーで殴られたような衝撃を受けました。
こんなヘンな声なんだ、とショックを受け、数日はしゃべらなかったほど。
余談ですがFAIRCHILDのYOU(っていうかYOUがフェアチャイルドだったことを知らない人のほうが多いのか・・・)が昔インタビューで「自分の声がいやでいやで、しゃべらずに生きていこうと本気で思ってた」と話しているのを読んだときは「同志よ!」と思ったものです。
前置きが長くなりましたが汗、私のヘンな声をニャ娘も受け継いでしまったようで、ニャ娘がしゃべるとまるで妖精です。
周波数が高すぎるせいか、ロボホンに話しかけても人間の声と認知してもらえません。
大枚はたいてなんのためにロボット買ったのか・・・
おしゃべりするようになってから、どこへ行っても振り向かれ、「あなた、その声かわいいわね!」とわざわざ遠くから追いかけてきてお褒めいただいたことも何度もあります。
ふたりでおしゃべりしていると周囲の人が耳を澄ましているのが本当によくわかります。
他人から見たら「微笑ましい」のでしょうが、正直こわいほど反応されるので、気になってしまって私がうまくしゃべれないこともあります。
大人が聞くと「まあかわいい」という声は、子供が聞くと「ヘンな声」です。
自分と違うから「ヘン」なんです。

遅かれ早かれ、声のせいでからかわれるだろうと思っていましたが、保育園でやはり友だちにマネされているということを先日お風呂のなかで話してくれました。
本人はまだ「からかわれている」とは思っていないので傷つきはしないのですが、なにかイヤな感じということは気づいているようでした。
子供には悪意がない、とは私は思っていません。
子供は「悪意」と意識せずに、しかし「褒める」の反対の感情であることをおそらく認知しながら他者の個性を指摘します。
その「悪意の卵」をどうかわすか。
「自分と違う」ことがとても興味深く、相手を深く知る鍵なんだということを、この絵本では教えてくれます。

蛇足ですが、声のことをからかわれるだろうと予想していたので、私はニャ娘に幼いころからずっとこのように言い聞かせてきました。
「ニャ娘ちゃんの声は神さまからもらった特別な声なんだよ。だからみんなうらやましくてマネしたりするかもしれないけど、誰にもマネできないんだよ。ニャ娘ちゃんはその特別な声で、世界中のみんなを幸せにできるんだよ」
はいー、親バカ一丁上がり。笑
でも真面目な話、子供は親からどれだけ「価値のある人だ」と言われるかによって人格形成に影響が表れると思うので、私はニャ娘に褒め言葉を頻繁にかけるようにしています。
私自身の実体験としてよくわかるのですが、「あなたにはできない」と言われ続けて育った結果、私は本当になにもできない子になりました。
正しくは「なにもできないと思いこんでいた」わけで、大人になってから自分にできることを数多く見つけ、他人より遅れを取ることが多かったと思います。
言葉には魔法のような力があります。
声をかけ続けることによって、いつか本当にそのとおりになります。
なにげない声かけが「魔法」にもなり、「呪い」にもなります。
お子さんにはぜひ、やりすぎなくらいの褒め言葉をかけてあげてほしいと思います。
子供にとって養育者は世界のすべてですから。

最後にヨシタケさんのメッセージを引用します。

欲張るなら、絵本を読み終わったときに、「そういえば」とちょこっと見え方が変わってくれたり、ずいぶん経ってから読んだら「これ、視覚障害の本だったんだ」と気づく、そんなことが起きてくれたら嬉しいなあと思います。

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