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BOOK

これはお金や金融テクノロジーの解説書じゃない。もうすぐやってくる勇気と希望の物語だ

お金2.0 新しい経済のルールと生き方
佐藤航陽:著
幻冬舎

あらすじ

タイトルと表紙を見るとブロックチェーン技術やトークンについて書かれた本のように見えますが、これは金融テクノロジーの解説書ではありません。
インターネットテクノロジーの進化によって今後起こること、それに伴って「お金」という存在、概念がどう変化していくかについて筆者の予想も交えながらわかりやすく解説しています。

ニャム評

[2018.8.1追記]

「MIT Technology Review」の記事を読んで、ベーシック・インカムの現実が垣間見えたような気がしました。
一部の富裕層がより収入を得る構造の資本主義社会から脱却し、高齢者やなんらかの理由により就労できない人たちの幸福度を上げているように感じます。
ベーシック・インカムなど導入したら怠け者で溢れてしまう、と考える人こそ、このレポートに目を通してみるといいかもしれません。

記事内で語られる下記の言葉が印象的です。

「ベーシック・インカムによって、何か価値のあるものに時間を使えるようになるのです。自分の価値が認められ地域に貢献しているのに、給料が低いからといって仕事を辞めなければならないのは、非常に悲しいことです」

「誰かに『劣っている』とは感じません。『同等だ』と感じるのです。町を歩きながら『自分は今、何をやっているんだろう』と罪悪感にさいなまれることもありません。人は何かをしたいと思っています。何もしないようにはできていないのです」

まず、これからの10年でなにが起きるか?

筆者は「分散化」へとシフトしていくと明言しています。
既存の経済や社会は「中央集権化」であり、中央集権化では必ず組織の中心に管理者が存在して各所のハブとなり、情報を整理し伝達する役割を担ってきました。
「中央集権化」は一部の組織や企業がより優位に、強大になっていく仕組みになっています。
しかしそれは、情報が偏り、中央に情報が集まることで中央はより優位に、中央から物理的に離れた位置は劣位になっていたからで、情報の偏りがインターネットによって均一に同時に伝達するようになった現在では、「中央集権化」のロジックは成り立たないということになります。
これを、中央集権的な管理者からネットワークを構成する個人へと権力が逆流する「下剋上」だと筆者は表現しています。

さらにIoT、AI、ブロックチェーンが絡み合うことで自動的に回り続ける経済圏ができあがり、従来ビジネスの収益構造を抜本的に変えてしまう「経済そのものの民主化」が起きているといいます。

一方で、現代社会ではなにが起きているのか?

これまで社会を形成してきた資本主義は「手段の目的化」つまり「お金を増やすためにお金をやりとりする」といった手段のみに傾倒していき、実体の経済や生活と乖離したところでお金が動くようになりました。
それはたとえば「いい企業に就職するために大学受験する」といった、本来の勉強するための入学とは目的が変わってしまっている状態だと例えられています。

資本主義が行き過ぎてきたので、バランスの悪さを感じる人たちが現れ始め、NPOなどの社会貢献活動や地域再生活動に参加する人が増えてきました。
「お金にはならないけど価値のあることってあるよね?」という考えが支持されるようになっていきます。
そのように感じる人たちが増えていき、資本主義に代わる「価値主義」が台頭すると筆者は記しています。

では「価値主義」とはなにか?

価値とは尊敬、共感、好感、崇拝、魅力など人間の感情、心で感じるモノやコトです。

これまでは感情を数値化できなかったので、資本主義下での「価値」は金融的な資産評価の対象になっていませんでした。
しかし現在はフェイスブックやツイッターなどのSNSやyoutubeなどで共有される数によって視覚化、数値化が可能になりました。
まさにフェイスブックの「いいね!」が価値そのものを示しています。

この「価値」が今後の経済の指標となるとすれば、価値を最大化しておくことで「ほかの価値」と交換したり、通貨に換えたりすることができるといいます。
まるで物々交換の時代に戻るような話ですね。
この価値がもっと重要視されるようになると、たとえば企業への投資判断の材料が「社員満足度」になったりします。

インターネットテクノロジーの進化が「価値主義」を推進し、加速させていくという新しい時代が目前に迫っているというのです。

ITと価値主義が結びつくとなにが起きるのか?

インターネットによって消費者が知恵をつけ、これまで情報格差と政治的特権を活かして利益を上げてきた企業を個人が凌駕するようになっていきます。
資本主義下の企業は利益を上げることが経済活動の目的ですが、個人は利益を上げることに執着しないので、「営利と非営利の境界線が消える」ということが起きてきます。
また、本当に価値のあるものにしか利益がついてこない、価値と利益がイコールになる時代だと筆者は言います。

また、AIが人間の仕事をするようになれば、人間がやってきた仕事が減っていくことになり、この状態が進んでいけば、国民にベーシックインカム(生活に必要な最低限のコストを支給する仕組み)が適用される国も出てくるだろうと予想しています。

このように社会経済の構築が変化することで、複数の経済圏が発生し、個人は自身が活躍する場を選択できるようになるといいます。
現代は資本主義という仕組みのなかで失敗したら復活する方法がありませんが、複数の経済圏があればひとつの場で失敗しても別の場でやり直すチャンスがあり、自分に合った場を選択できる可能性が広がります。

「お金とはなにか」を考えに考え続けた筆者が描き出す、まったく新しい経済論。

ニャム評

表紙を見るとガチガチのビジネス書で、手に取るのをためらうほどですが(ビジネス書ニガテです)、これはビジネス書とは少々風味の違う面白さがありました。

「ベーシックインカム」の話などは、なかなかそこまで一足飛びに想像はできませんが・・・
でも、「忙しい=働いている」という状態が優秀だと思っている日本人の感覚は個人的に好きではないので、筆者の予想には基本的に大賛成です。

ことに「価値主義」という概念に関しては、非常に勇気のわく話だと私は思いました。
自分の居場所がなく苦しんでいるような人たちがいなくなる時代がもうすぐやってくるなんて、こんな明るい話題をここ数十年で初めて聞いたような気がします。

この本が導き示す世界は、個人が自分らしく生きることができ、他者との相対的な格差を気にする必要がなくなり(価値観が多様化するため)、活躍する場所を自身で選択可能になるということです。
これはもう夢みたいな話で、これを阻む理由が私には見当たりませんでした。

筆者の佐藤さんご自身がご苦労の多い少年時代を過ごされたそうで、佐藤さん個人の格差廃絶に対する強い使命感のようなものを感じました。
世の中をもっとよくしたいという切り口を経済、お金に見出すという発想がとても面白く、ITによるエビデンスを伴って描かれているため納得のいく内容でした。

もちろん、誰もが努力せずに遊んで暮らせるということではなく、「価値」を磨き育てるという「努力」が必要になりますが、これまでの至上命題であった「いい大学に入っていい企業に就職していい配偶者を見つける」みたいな、意味不明な価値観の枠から出られるというだけで、生きることに希望を見出す人が劇的に増えると私は思います。

「こんな夢みたいな話が実現するわけがない」と思う方もたくさんいることでしょう。
でもそれは、その価値観が次代の人たちと共有できていないということに尽きると思います。
これからの時代は、自分だけの価値観では進むべき道を見誤る可能性が高いと感じます。
船を進めるのに風や天気や潮目をいかに読み取れるか。
風に乗り遅れないように、時代を読み取らなければと思います。