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BOOK

あの黄門さまのお話。でも同一人物と思えないほどの豪傑なんです

光圀伝

冲方丁:著

「水戸黄門」で有名な、徳川光圀の生涯を描いた物語。
兄がいながら自分が世子となり、その意義に苦悩した少年・青年時代から、さまざまな出会いに恵まれて成長し、長い生涯を終えるところまでを追っています。
著者による脚色がかなり入っているかとは思いますが、魅力溢れる才人として描かれており(特に上巻後半あたりから)、エンタテインメントとして楽しみながら読み進められます。
日本で初めてラーメンを食べた人物であるとか、現在浅草にある吉原の地を定めたなどと、ちょっと面白いエピソードも語られます。
この小説のなかでもっとも感銘を受けた一文がありましたので、以下引用いたします。

[引用]
藩主とは、託す者である。事業が成されたとき、褒め称えられるべきは託された側であって、余のような、託した者ではないのである。
託した者は、託された者の働きを賞賛せねばならず、我が着想のありしを黙して、ただ事業の成就を喜びとすべきなのである。
そうした託すことの重さこそ、宣言の重さであろう。
だがときに、宣言にのみ重みを持たせ、託すことをおろそかにし、ただ自らに賞賛が集まることに腐心する者たちもいる。
そうした者たちの宣言は重きように見えて軽薄であり、人心を煽りはすれど、託すことの重きを知らない。
知らないがために、人命を軽んじ、犠牲を強いるのである。
事業の成就を我が功名とせんがために民を疲弊させるばかりか、ときに、そうした宣言によって国が滅ぶことにもなりかねない。
下巻 156ページ
[引用ここまで]

光圀という人物に興味をお持ちになった方は、吉川英治「梅里先生行状記」も併せておすすめします。
光圀について詳しくない方がいきなり手にすると、ちょっとわかりにくいかもしれませんが、「光圀伝」のあとに読むとさらに広がりを感じられると思います。