「育てにくい子」と感じたときに読む本
佐々木正美:著
主婦の友社
あらすじ
情報誌「Como」(コモ)で4年半にわたり連載された、「子育て悩み相談室」のコーナーに寄せられた読者の悩みに対するアドバイスをまとめた一冊。
育児に悩む母親からの切実な問いに、あたたかく優しい言葉で答える著者のアドバイスは、育児の苦しさを解きほぐし、子供を育てることの楽しさと喜びを思い出させる。
【悩み相談】
・ささいなことで泣きわめき続けます
・母親に対してわがまま大爆発の三男
・感情が爆発すると1時間以上泣きやまない
・保育園に迎えに行っても1時間以上帰ろうとしない
・ほかの子のことが気になってしかたない
・本当は優しい子なのに、カッとなると手が出てしまう
・乱暴、すぐどなる、友だちに怖がられる息子
・消極的なのは、親の育て方が悪かったせい?
・幼稚園が怖くて行けなくなってしまった
・一人遊びが好きなのは、小さいころ遊んであげなかったせい?
・幼稚園で話せなくなってしまった娘
・「学童クラブに行きたくない」と言うのはなぜ?
・友だちができない、思ったことが言えない
・落ち着きがなく忘れ物も多いのですが・・・
・ひっこみじあんの息子が心配です
・忘れ物が多く片付けられない長女を厳しくしかってしまう
・毎日繰り返される兄弟ゲンカがイヤ!
・3人に物を買ってあげるのは難しい
・姉が弟のジャマばかりしているなんて
・意地悪な兄を冷静にしかるなんてできない
・上の子をかわいいと思えないのです
・怒りだすと歯止めがきかなくなる自分がイヤ
・離婚したことで子どもが寂しい思いをしているが・・・
・顔の大きな娘を見るのがつらい
・自分の母を許すことができない
・次女に対して大人げなく怒る夫を変えたいが・・・
悩み相談への回答に加え、著者の育児コラムも収録。
「母性とは」
「しつけってなんだろう?」
「遊びについて考える」
「人を信じられる子に」
「発達障害の子」などについて、児童精神科医としての豊富なキャリアを基軸にした育児論を展開。
育児経験もなく、孤立しやすい現代社会で不安を抱える母親、父親、そしてすべての養育者に子供と向き合うヒントを与えるベストセラー本。
ニャム評
児童精神科医として数多くの育児書を記した佐々木さんの「育児アドバイス本」です。
「Como」に寄せられた育児の悩みは「言うことをきかない」「どうしていいかわからない」といった内容が多く、読んでいるだけでも大変だなと同情するようなヘヴィなものばかりでした。
それらの悩みに対し、佐々木さんは「大丈夫」と答えます。
「それは心配です」とはいっさい言いません。
むしろ、思いつめている母親に対して「あなたのほうが心配です」と気にかけ、思いやっている。
どんな子供に対しても「心配ありません」と回答し、その根拠が示されていて、ひとつひとつが納得できる内容でした。
佐々木さんの育児論として、「子供が求めている親になりなさい」ということが書かれています。
子供の望むことをできるかぎり叶えてあげて、どんなささいなことも快くやってあげる。
可能な限り「過保護」であれと、そういう主張でした。
私は佐々木さんのおっしゃるように、家庭内ではニャ娘を過保護に育てていると思っているので、これでいいのか、よかったと改めて安心しました。
ちなみに過保護の内容は、パジャマや服の着替えをやってあげる、ゴロゴロ寝ながらごはんを食べさせる、などです。
単にしつけが悪いだけに見えますが笑、線引きは「家の中だけで許されるルール」です。
ニャ娘は保育園や外出先では優等生なので、本来はきちんとできるということを私たち保護者は知っています。
だから、「家の中」だけは、甘えてもいいことにしています。
休みの日はパジャマのままでダラダラ過ごし、結局夜まで着替えなかったこともよくあります。
こんなに甘やかすとだらしのない子供に育つのではと心配になりますが、親が言わずとも外出先では自分でスイッチを切り替え、キリッとしています。
むしろ家では自我を解放させてあげないとリラックスする場所がなくなってしまいます。
「親の前で『いい子』であることは、怖いことでもある」と佐々木さんは本書冒頭で述べています。
「親の前でいい子・外では問題の子」について、このように記されています。
こういう子たちは、かなり早いうちに「親は自分の行動に対して喜んだり悲しんだりするのだ」と気づいてしまった子たちです。
早い子であれば、1才ごろから気づき始めます。
彼らは「親が喜ぶことがしたい」と思い、実際にそうするのです。賢い子たちです。
だから、しばしば偏差値の高い学校にとんとん拍子に進んだり、習い事で優秀な成績を残したりします。
しかし、思春期・青年期になって突然キレてしまうのです。
社会に適応できなくなるのです。
または何の問題もないように見えて、自分が親になったときわが子に暴力をふるってしまうこともあります。
非常に不幸なことです。
1才ごろから親の評価を気にしているとは驚きですが、子供は私たち大人が想像する以上に空気を読んでいるということを理解するだけでも、子供との接し方が変わるのではないかと思いました。
佐々木さんは児童精神科医なので、さまざまなケースの子供を見てきたうえで、本書の相談にも広い視野でのアドバイスをしています。
そのなかで発達障害、ADHD、PTSD、緘黙(かんもく)などの可能性にも触れています。
発達障害やADHDについては「あくまで可能性のひとつ」として挙げながらも、専門家の助言が役に立つとアドバイスしています。
そして、発達障害についてこのように述べています。
ADHDとそうではない子の境界線は、はっきりとはしないものです。
血圧の高い・低いと同じようなものと考えてみてはいかがでしょう。
「けれども特別な注意が必要ですよ」と、それを伝えるための目印だと。
この説明はとてもわかりやすく、そして大人が勝手に作り上げた見えない壁を崩すような、いい例えだと思います。
また、幼稚園の先生からきつく当たられたことで幼稚園へ行かれなくなってしまったという子の相談には、その幼稚園を厳しく批判し、PTSDを示唆しています。
相談文だけなので非常に少ない情報なのですが、教諭である先生をきっぱりと批判し、子供を守ることを最優先するという佐々木さんの判断は、養育者側である私にとって少し心強い思いを与えてくれました。
ほか、「子供がよその子に乱暴してしまったとき、相手の子に謝るのは親の仕事」という話や、「夫が育児に非協力的」という相談などが個人的に心に残った内容でした。
「夫が育児に非協力的」という相談には、「妻に協力できない夫の愛情の中身を問いたい。それは単なる自己愛ではないですか?」と一刀両断。
おお、これは・・・と、一気に目が覚めるような気がしました。
この相談に佐々木さんは「自己愛が満たされなくては本当の意味で人を愛せない」と言い、「自己愛を求める幼児性のある夫をもった妻は、子どもがもう一人いると考えたほうがいいのです」とバッサリ斬っています。
赤ちゃんのお世話で必死の毎日を過ごしているお母さんは、「もう一人の子ども」についてどう思うでしょうか。
たぶんたいていのお母さんは「こっちの子どもはいらない」と思っています。
産後うつとか育児ノイローゼとか、母親のせいにされがちですが、そうじゃないよね・・・と思っている女性はすごく多いと思いますよ。
佐々木さんは2017年6月にお亡くなりになりました。
この本の最後に書かれていた文が、私の心に残っています。
わたしには、自分の余生を使って、やりたいと思っていることがあります。
それは「人々の広場」をつくることです。
あくまで仮の名前ですが、そのような名前でいまは考えています。
そこは、子どもがいきいきと遊ぶことを前提につくられる場所です。
でも、子どもだけ集めてもダメで、親子が連れ立ってこられる場所。
育児で困った親のよりどころになれる場所でなくてはいけないと思っています。
この「人々の広場」が実現したのかどうかはわかりませんが、もっともっと佐々木さんにいろんな場所で活躍してほしかったなと、本書を読んだあとに思いました。
佐々木さんの言葉に救われるお母さんはたくさんいるだろうと思います。
家庭は核化していき、「大丈夫だよ、心配ないよ」と言ってくれる人は、私たちのまわりにはいなくなってしまいました。
だから、この本が「大丈夫だよ」と言ってくれることが、親子の幸せにつながることを強く願います。
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