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BOOK

第157回芥川賞候補作。主人公ちひろの純粋さを見るたびに笑えてちょっと胸が痛くなります

星の子
今村夏子:著
朝日新聞出版

芥川賞候補になった話題作です。
ボリュームは長編というほど長くなく、また字が大きく、朝夕の通勤電車一往復で読み終えてしまいました。
主人公のちひろが一人称で語る形式で、さらっと読みやすくてどんどん先に進めます。

主人公のちひろは赤ちゃんのころ病弱で、病気を治すためわらにもすがる思いで様々な民間療法を試しているうちに、両親は「奇跡の水」というものに出合い、そこから一気に新興宗教へとのめり込んでいく、というストーリー。
こう聞くと、重苦しくエキセントリックな内容かと思えますが、ちひろの語り口が軽妙で、重苦しさや奇異なことは特に感じられません。
ただ、ちひろ自身の純粋さや社会性のなさから生まれる、いわゆる「普通」の人とのズレが随所に(というか全編とおして)描かれ、そこがコミカルで笑えました。
そしてちひろが次第に世間を知るようになり、物語が切なさを帯びるようになっていきます。
ラストははっきりしない着地でしたが、ちひろと両親の三人がいつまでも星を見上げるシーンで、なんとも言えない物悲しさや優しさを感じました。

話題作だったのでネット上の書評をいくつか見てみましたが、物語の等身以上に持ち上げているレビューが多く(書店員によるものはほとんど崇拝みたいな語り口・・・)、それを先に見てしまうと少々鼻白むような感じがしました。
芥川賞候補作、書店員の陶酔レビューと見てしまうと、読む前に構えてしまうような・・・
個人的な感想ですが、淡々としたなかにもさざなみのような感情の揺れがうまく織り込まれ、笑ったり切なくなったりするような軽めの悲喜劇だと思います。
登場人物の設定が多少マイノリティなだけで異端と受け取るのって日本人だけでは・・・とか、世間の反応にちょっとモヤッとしていまいました。

作品自体は普通に面白い物語です。
芥川賞候補ってことはまったく気にせずに、むしろ読書入門としてもおすすめです。