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2020年度教育改革の肝は「非認知能力」。予測不能な時代で子供が生きていくために必要な忍耐強さや思いやり、想像力やコミュニケーション力を育てる方法をやさしく解説

心の強い幸せな子になる0〜10歳の家庭教育
「非認知能力」の育て方
ボーク重子:著
小学館

あらすじ

「非認知能力」とは、テストの点数やIQなど数値化できる能力とは違い、「くじけない心」「想像力」「コミュニケーション力」「行動力」「やり抜く力」「我慢する力」などの総合的な人間力、「生きる力」のことである。
試験や知能指数といった数値化できる能力を「認知能力」と呼ぶのに対し、これらの力は数値では表せない能力であることから「非認知能力」と呼ばれ、世界で大きく注目されるようになり、日本でも2020年教育改革に伴い非認知能力が重要視されるようになった。
塾やドリル、早期教育など「一方通行」の学習教育では身につけることができない非認知能力を、どのように育てればよいのだろうか?
「全米最優秀女子高生」で優勝した一人娘を育てた経験を持つ著者が、家庭内でできる様々な「非認知能力の育て方」をレクチャーする。

第1章では「非認知能力」とはなにかを詳細に解説。
2000年にノーベル経済学賞を受賞したジェームズ・ヘックマン教授による幼児教育の研究結果では、乳幼児期の子供に学力重視の早期教育を施してもIQを高める効果は短期間のみであったこと、一方で学習面以外の早期教育については学習意欲や自制心、粘り強さといった「非認知能力」が著しく伸びたという。
その他のさまざまな研究により、幼児期には詰め込み教育で学力を伸ばすより「非認知能力」の基礎を身につけるほうが重要であり、この「非認知能力」がもっとも伸びるのは10歳までの乳幼児期であると結果づけられたことを紹介。
実際に「非認知能力」を伸ばすために家庭でもできることを、次章から具体的に解説していく。

第2章では、子供が人格形成するうえでもっとも重要な「ルール」について解説。
社会で生きていくために必要な「ルール」を理解し、その制限のなかで自制心や達成感、自主性などの非認知能力を育むために、家庭内で「ルール」を作り実行することを推奨する。

第3章は、子供との「対話」の大切さについて語っている。
社会学者のベティ・ハートとトッド・リズリーによる「3000万語の格差」という研究は、幼児期に聞く言葉の数が将来の学力に大きく影響を及ぼすという結果をもたらした。
また、「大人から子供へ語りかける」ことで様々な語彙を習得することができるため、幼少期からの読み聞かせ、日常的な語りかけが重要と説くとともに、子供の思考力や自制心、自己肯定力を高める「対話」の方法について具体的に紹介する。

第4章では「子供の仕事」である遊びの重要性にスポットを当てる。
体を動かすことや自然に触れること、好きなことに没頭することで創造性、脳の活性化、身体能力の向上など様々な能力を伸ばすことができるチャンスととらえ、幼児期の早期知育よりも「遊び」を重要視している。

第5章は「実践編」として、自己肯定感とレジリエンスを育てるために家庭内で実践できることを12に分けて具体的に解説。
また、親自身の自己肯定感や幸福感が低いと子供にも伝染するため、親自身の自己肯定感を高める大切さについても語っている。

最終章である第6章では、「パッション」(好き)を見つけることについての重要性に触れ、「どんな努力も『好き』がなければ続けることができない」と説く。
さらに、親自身も「好きなこと」に夢中になる姿を子供に見せ、子育てが終わったあとも生きがいとしての「パッション」を持つことが人生を豊かにすると強調する。

ニャム評

テストの点数や偏差値で数値化できる能力に対し、「総合的な生きる力」のことを非認知能力といいます。
アメリカで非認知能力が注目され、日本でもようやく「詰め込み型の知育教育一辺倒」から脱却すべく、2020年度から教育改革に踏み切りました。
ベネッセが公開している「教育の変化」がわかりやすいです。
しかしすでに文科省の方向性が二転三転しているのでもはやなにがしたいのかよくわかりませんが・・・

教育の変化
新学習指導要領、大学入学共通テスト、多面的、総合的評価について解説
ベネッセコーポレーション

日本の「2020年度教育改革」とは、簡単に言えば「変化の激しい社会で生き抜く力をつける」ということです。
これまで「学んだ知識をどのくらい脳内でキープできるか」(詰め込みによる学力重視教育)という、いわば「人間字引き、あるいは人間電算機」的なことが重要視されてきましたが、テクノロジーの進化によりAIが人間の知識や学力を凌駕することは誰の目から見ても明らかな事実です。
そうなると、「お勉強ができる」だけの人間は不要となってくるわけですね。
それはAIが代わりにやってくれるし、しかもAIは休憩も睡眠も必要なく24時間働いてくれますから、人間よりはるかに効率がいいわけです。

では、これからの未来で人間はなにをすればいいのか?
これからは機械やAIに「なにをさせるか」ということを考えられる人が必要になります。
「ひらめき」「幅広い視野」「多様な価値観」「忍耐強くやり抜く力」「情熱」「思いやり」こういったものが「人間力」として実際に必要となってくるのだろうと思います。
それらの能力は、テキストやドリルをこなすことでは身につきません。
では、どのように「非認知能力」を身につければよいのでしょうか?
本書では非認知能力の習得について重子さんの体験談も折り込みながら語られており、どんなことをすればいいのかが章ごとにわかりやすく記されています。
また、チェックシートもついており、実用的で取り組みやすいと思います。

ボーク重子さんは、「朝日こども新聞」の「今日もパッションで生きていく」という連載で知りました。
「朝日こども新聞」はLINE NEWSで登録するだけでダイジェスト記事が届き、無料で読むことができますよ。

朝日こども新聞 LINE ID @oa-asahikids

なんだかとっても派手で(笑)、いきいきしていて、たしかにパッションがあふれていそうな人だなぁと思ったのが第一印象です。
そんな重子さんに必ずといっていいほどついてくるのが「全米最優秀女子高生を育てた母親」という称号です。
この称号を見ると、さぞかし立派で裕福な教育ママなのだろうというイメージになりそうですが、個人的には彼女についてくる「称号」がややうるさくて、彼女自身のパーソナリティが見えてこないことに多少の不満のような感情を持っていました。
そこで「全米最優秀女子高生のお母さん」ではなく、重子さん自身に興味を持ち、彼女の著書を手に取った次第です。

著書にどんなタイトルをつけても「全米最優秀女子高生の育て方」として読まれてしまいそうですし、それはある意味で間違っていないのかもしれません。
ですが、「子供がいい高校や大学に入学するためのマニュアル」をお求めの方には、この本は最適解ではありません。
いえ、結果としてはこの本を読むことで「一周回って『いい高校やいい大学に入学するスキル』を身につける方法がわかる」かもしれません。

なんだか回りくどくなりましたが、まず最初にこの本が伝えることは「子供が幸せに生きるための力がもっとも重要である」ということです。
偏差値重視の社会が長く続いた結果、どのような社会になったのかは現在の日本を見れば明らかです。
これは19990年代ごろのアメリカでも起こっていたそうです。
難関大学を卒業した学生たちが有名企業へ次々と入社し、そこで経営者たちは大きな衝撃を受けました。
「名門大の新卒者がみんな同じ顔をしてマニュアルどおりの受け答えをする」
同じプログラムを積んだロボットのような新卒者たちを見て、個性や人間力の欠落に危機感をおぼえたアメリカ社会は、学力重視から非認知能力育成へとシフトチェンジすることになりました。

正しい解があらかじめ定められた問題を間違いなく解く能力だけを鍛え続けてきた子供たちは、「答えのない問題」が山積みの社会に出た瞬間、どうやって生きていけばいいかわからなくなってしまう。
私たち保護者は、子供になにを持たせてやるべきでしょうか。
学力はもちろん、社会で生きるうえで強力な武器となるはずです。
しかし、それだけを身につけても、複雑で変化の著しい社会では容易に生きていくことはできません。
どんなに強い武器でも、それを使いこなせる筋力がなければ持っている意味がありません。
また、武器だけ持っていても防具がなければダメージを防ぐことができません。

私は「ドラゴンクエスト」が大好きで、「ドラクエウォーク」を熱心にやっていたのですが(仕事があまりにも忙しくなってやめてしまいました)人生はドラクエに似ているなとしみじみ思います。
最初はこんぼうと布の服しか持たない貧相な装備でモンスターの湧く野へ出ていき、そこで瀕死になりながら経験値とゴールドをこつこつ貯め、やがて少しずつ武器や防具を揃えていく。
冒険を続けていくうちに仲間と出会い、力を合わせて困難を乗り越え、先へ先へと進んでいく。
現実と違うのは竜王を倒しに行くことくらいでしょうか。
いや、現実にも竜王クラスのラスボスは現れますよね。
それが教室内のいじめだったり、就職難だったり、家庭内の問題だったり。
それぞれの「竜王」を倒さねばならない局面は不可避であり、ラスボスを倒さねばエンディングにたどり着くことはできません。
しかも、人生にはゲームのようにエンディングがなく、命が続く限り冒険も終わらないのです。

できるだけ子供には「ラスボス」と戦わずに済む人生を歩ませてやりたい、そう思うのも親の当然の気持ちだと思います。
でも、人が人として生きるには、避けて通ることができない場面というのは必ず訪れるのだと思います。
そのときに、自分を守る方法や戦う方法を教えていなければ、傷つき苦しむのは子供です。
なにより、子が自分自身の人生を歩むのに、親がその前を歩いて道を舗装してやるのは間違ったことと言えるでしょう。
順当に生きていれば、やがて親は先に死にます。
あまり考えたくありませんが、これも不可避の現実です。
子を看取ってやることはできないのです。
子がひとりで生きていくには、なにを教えてやるべきなのか。
答えはひとつではないでしょうが、この本はその解答のひとつであると思います。