BOOK

「アパートの清水」に新しい住人・コタローがやってきた。4歳児で1人暮らしというコタローのかわいらしくて痛烈に切ないギャグマンガ

コタローは1人暮らし
津村マミ:著
小学館

あらすじ

「アパートの清水」に暮らすマンガ家・狩野のとなりに、新しい住人が引っ越してきた。
引っ越しのあいさつにやってきたのは4歳のコタローという男の子。
ナゾの「殿さま言葉」でしゃべり、妙に生活力のあるコタローに狩野は戸惑うが、「隣人」として暮らすうちにコタローがなぜ1人暮らしなのか、その理由が徐々に見えてくるようになる。

「アパートの清水」に暮らすダメな住人たちと、無垢な4歳児の心温まる交流が始まった。

ニャム評

アマゾンのレビューにネタバレがガンガン垂れ流されているので隠さずに明かしてしまいますが、コタローは実の父親から虐待を受けて接見禁止となっている4歳の男児です。
接見禁止だとしても、アパートに4歳児が契約できるのか?という現実的なナゾは拭えませんが、そこはマンガということで。。。

コタローは狩野という売れないマンガ家のとなりに引っ越してきて、アパートの住人たちとの交流が始まります。
すねに傷持つ住人たちですが、コタローの境遇を次第に察するようになり、コタローをつかず離れずそっと見守るようになっていきます。

基本はギャグテイストなのですが、物語の伏線としてコタローが過去に受けた傷が垣間見えるエピソードが随所に盛り込まれ、ハッと胸を打たれる瞬間があります。
その瞬間がけっこうな頻度でやってくるので、気軽に電車とかで読んでいるとうっかり泣いてしまうので大変に危険です。
これほんとに。

コタローは妙に大人びていて、大人でも気づかないような些細な心の機微も察してしまうのですが、人の心がわかるのは自分が過去に同じ傷を負っているからなんですね。
そして、被虐待児の典型的な思考ですが、誰かが悲しむとき、冷たくするとき、ひどいことをするとき、「自分が悪い子だからだ」と思ってしまうのです。
だからコタローは「強くなりたい」と願い、そのため日夜精進(?)しています。
そして、「強くなれば母上と一緒に暮らすことができる」と信じているのです。

母親と一緒に暮らせないのは自分が弱いせいだと思い込み、強くなろうと奮闘するコタロー。
しっかり者で賢いコタローを見ているとつい忘れてしまうのですが、4歳の子供が「自分が強くなればお母さんと暮らせる」と信じてがんばっているという設定には涙を禁じ得ません。
そして、大好きなお母さんとなぜ離ればなれなのか、その理由も次第にわかってきます。

救いがなくやりきれない話も多く、実際に経験のある方は読み進めるのがつらいと感じるかもしれません。
それでも、コタローを見守り支えるご近所さんたちとの交流や、幼稚園の友だちとのやりとりを見ていると、つらく悲しいことはなくならないけれど、優しさやいたわりも同じように世界にあふれているのだと思い出させてくれます。
日々の暮らしに追われ、自分のことだけでせいいっぱいという人が多いなか、「他者への小さな優しさ」を持つことで乗り越えられることは確実にある、と思わせてくれる物語です。