BOOK

昔はお菓子の箱にフィルムなんてかかってなかった。その恐怖の理由

罪の声

塩田武士:著

講談社

 

通称「グリコ・森永事件」と呼ばれ、実際に起きた事件を、元新聞記者の著者が徹底的に検証。
小説として「犯人特定」までたどり着いた、重厚な社会派ミステリー。

この物語の始まりは、ふたりの主人公のうちのひとり・俊也が古いカセットテープを見つけるところから始まります。
「……ばーすーてーい、じょーなんぐーの、べんちの、こしかけの、うら……」
テープに吹き込まれた男児の声を聞き、犯行に使用されたものであるとともに、それが自分の子供のころの声であると気づいた俊也。
なぜ自分の家に犯行テープがあるのか、それよりも、なぜ自分の声が使われたのか・・・
戸惑い恐れながらも、俊也はこの事件の真実を追い始めます。

もうひとりの主人公は、新聞社勤務の阿久津。
文化部で細々と記事を書く日々を過ごしていたはずが、突然「社をあげての大型企画」の応援記者に抜擢されてしまいます。
その大型企画とは、日本の犯罪史に残る「ギンガ・萬堂事件」を掘り起こすというもの。
(物語では「ギンガ」「萬堂」という社名に変更しています)
いやいや参加した阿久津ですが、事件を追ううちに予想もしなかった核心へと足を踏み入れるようになっていきます。

20代はもちろん、30代の方も「グリコ・森永事件」はリアルな記憶がないかもしれません。
私は当時、小学生でした。
同級生に江崎くんというお金持ちの子がいて、江崎グリコと同名というだけで「江崎くんちの会社!?」とクラスが騒ぎになったことを覚えています(笑)。
店の棚からお菓子がなくなり、事件終息後にお菓子の箱に透明のフィルムがかけられるようになったのも鮮明に記憶しています。

この小説では、社名は変更されていますが、事件発生日や犯行に使われた声明文、脅迫状など「グリコ・森永事件」で実際に起きたことを忠実に再現しています。
当時の記憶がある方は、ノンフィクションを読んでいるような錯覚に陥るかもしれません。

また、あまりに大きな事件だったのと、時効になったため、犯人の特定に関心が向きがちですが、この作品では「家族」を主題に据えて書かれています。
あの事件によって翻弄された「家族」の運命は、フィクションとはいえ読んでいて身につまされるような思いがします。

社会派とカテゴリされますが、堅苦しくなく読みやすいです。
「本屋大賞」候補となったのも頷ける、非常に読み応えのある一冊でした。