もりのへなそうる
わたなべしげお:作
やまわきゆりこ:絵
福音館書店
おはなし
5さいのてつたくんと、てつたくんのおとうとで3さいのみつやくんは、じぶんたちでかいたちずをもって、たんけんへいくことにしました。
リュックサックにおべんとうを入れて、ピストルと、ちずと、クレヨンをもって、森へ出かけます。
森の中へいくと、大きなたまごを見つけました。
赤ときいろのしましまもようで、てつたくんのせのたかさとおなじくらい大きなたまごです。
てつたくんとみつやくんは草やはっぱをたくさんあつめてきて、たまごをかくしました。
そして、がようしに「ひみつです」とかいて、ぼうにさして、草の上に立てておきました。
だれにもひみつのたまごです。
つぎの日、ようちえんからかえったてつたくんは、みつやくんと森へいきました。
たまごをかくしたばしょにいくと、そこにはへんなどうぶつが立っています。
そのどうぶつは、へなそうるのこどもだといいました。
てつたくんとみつやくんは、へなそうるといっしょにあそびはじめます。
ここがおすすめ
「エルマーのぼうけん」の訳者として有名な、渡辺茂男さんによる児童文学です。
渡辺茂男さんといえば、素晴らしい言葉によって紡がれた日本語訳がなんといっても印象的ですが、オリジナルの作品もたいへん素晴らしいです。
まず、「へなそうる」という名前がすごい。
タイトルを見ただけではいったいなんなのか、想像もつきません。
へなそうるが生きものであるということすら、タイトルだけでは思いつきません。
このへなそうるが衝撃的なインパクトを読者に与えるのですが、これはとにかく「百聞は一見にしかず」、読んでいただくしかないと思っています。
大人の縮こまったつまらない思考回路が一瞬で吹っ飛ぶような破壊力です。
こんなに腹を抱えて笑った児童書にかつて出合ったことがありません。
また、渡辺さんの物語の攻撃力を数百倍にも高めているのが山脇百合子さんの挿絵です。
山脇百合子さんといえば「ぐりとぐら」「いやいやえん」などで多くの人に親しまれていますが、その山脇さんがまさかこのような絵を書くとは、本当に吹っ飛びます。
具体的には、105ページ、107ページと、130、131ページの見開きにある絵ですが、こんなにインパクトのある絵を見たことがありません。
我が家は図書館で借りてきて読んだのですが、これは絶対にほしい!ということになり、自宅用に購入しました。
「エルマーのぼうけん」も「ぐりとぐら」も素晴らしい絵本ですが、「もりのへなそうる」こそ日本中、世界中の子供に読んでほしいと強く思います。
こういう世界があるということを知らないのは、あまりにももったいない。
へなそうるの強烈なキャラもすごいのですが、やはり渡辺さんによる言葉選びの素晴らしさも注目すべき点でしょう。
森で遊んでいたみつやくんが蚊に刺されると、お兄ちゃんのてつたくんがばんそうこうを貼ってあげるのですが、ばんそうこうを「バンデージ」って言うんです。
これはかっこいいというか、しびれるなと思いました。
さっそく我が家ではまねをして「バンデージ」と言っています。
ばんそうこうじゃなくて、バンデージっていうのが、なんだかとってもすてき。
そして、蚊に刺されて大騒ぎするみつやくんを見て、へなそうるもバンデージを貼ってほしくてしかたないんですね。
「かにに さされたよう!バンデージ はってよう!」と大声で言うへなそうるがおかしくて、かわいくて、読みながら思わず笑ってしまいます。
てつたくんとみつやくん、ふたりの兄弟が自然の中でのびのびと暮らしている様子や、3歳のみつやくんの言い間違いもほほえましく、男の子の育児ってこんな感じなのかなと楽しく読みました。
かわいさの中に隠された破壊力抜群のボムを、ぜひ味わっていただきたいです。