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BOOK

かしましい四人の女と謎の老人。そして衝撃キャラ登場で読者パニック。三浦しをん流「細雪」は純文学の皮を着た爆笑ノベル

あの家に暮らす四人の女
三浦しをん:著
中央公論新社

あらすじ

独身彼氏なしアラサーの刺しゅう作家・牧田佐知は、古びた洋館に母の鶴代とふたりで暮らしている。
父はなく、不在の理由もよくわからない。
なぜか家の離れに住み込みで働く謎の男性・山田老人が男手として活躍(?)し、静かで平凡な毎日が続いていた。

そんな牧田家に、佐知の友人・雪乃、そして雪乃の会社の後輩であり佐知の刺しゅう教室の生徒でもある多恵美が、ひょんなことから下宿することになり、四人の女の不思議な同居生活が始まる。
四人の女たちのかしましくもほのぼのとした暮らしは、しかしある事件をきっかけに少しずつ変化していく。
四人の女と老人に加え、物語には驚くべき登場人物(いや人物と言っていいのか…)も闖入し、予想もしない展開へと猛スピードで転がっていく。

谷崎潤一郎メモリアル特別小説作品として著者が書き上げた、現代版「細雪」。

ニャム評

正直言って、「なんでこんなお話を書いたんだろう?」という感想でした。
ストーリーの軸だけで語ると、どこへ着地したいのかさっぱりわからないお話です。
ただ、ひとつ大変重要なことは、この物語がめちゃくちゃ面白い、ということです。
思わず「ははは」と声に出して笑ってしまうほど、もしくは不意を突かれてプッと吹き出してしまうほど、面白いです。
公共の場で読むのは大変に危険ですのでくれぐれもご注意を。

三浦しをんさんの本が好きなので、新作が出たら事前情報など見ずに手に取ってしまうため、今回は完全に不意打ちでした。
読了後に初めて「谷崎潤一郎メモリアル特別小説」とか「現代版『細雪』」ということを知り、ああそうだったのかと納得しました。
とはいえ恥ずかしながら「細雪」を読んだことがないので、どうもよくわかっていませんが…。

主人公の佐知は刺しゅう好きが高じてプロになったという、そこだけ聞くと大変立派ですが社会人経験がないのでコミュ力低めの男っ気なしアラサーです。
自他ともに認めるパッとしない女性ではありますが、美しいものを愛する感性と、お嬢様育ちのところが(山田老人に「お嬢さん」と呼ばれています)読んでいて清潔感をおぼえ、好感を持てます。
佐知と鶴代だけのひっそりした暮らしのなかに雪乃と多恵子がポンと放り込まれることによって、牧田家は一気ににぎやかになるのですが、この四人の女たちの他愛ないやりとりが心地いいんです。
互いに自立した女の友人とともに過ごす時間というのは、上質のカシミヤを羽織るような心地よさがあります。
これは女性でないとわからない感覚かもしれません。

女同士の楽しい暮らしが続くかと思いきや、そこに突然大きな災難が降ってきます。
その展開もちょっぴり衝撃なのですが、その災難によってとんでもないモノが物語に闖入してきます。
この物語のハイライトはまさにここでしょう。
まさか、なぜ、どうして??
読者を混乱の渦に叩き落とす、衝撃の展開です。
これはぜひ、あなたの目で確かめていただきたい。

ハイライトは突然の闖入者なのですが、全体的に笑いの要素がふんだんに散りばめられていて、どこを読んでいても不意に笑わされるため、うっかりしていると衆人の前でアホ面をさらす危険があります。
また、こうまで破天荒な設定ではあるものの、洋館や家具や日用品に古き良き美しさがにじみ出ていて、その小物たちがこの物語を上品に仕立てているように感じました。
そして、パッとしない佐知にも恋のはじまりが芽吹くような出会いもあり、物語に花を添えています。
例えるならば時速1キロの自転車みたいな、「遅!」と思わず突っ込んでしまうほどのスローペースで進んでいくところが、佐知らしくもあり、この不思議な物語らしくもあり、ほほえましいです。

とにかく、こんなにも不思議なお話はちょっと類を見ないように思います。
日常から頭を切り離したいという方にもピッタリな一冊です。
なにしろ、「まさか、なぜ、どうして??」ですから。
私の感じた衝撃を、ぜひあなたにも感じてほしいです。

しをんさんの衝撃ワールドがどこから生まれてくるのかがわかる、脳内丸出しエッセイも併せてぜひお読みください。
いったいどうしたらこんな脳になるんだ。