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ドワンゴとKADOKAWAが教育革命を起こそうと本気で取り組んだ、通信制高校「N高」。slackでおしゃべりし、入学式も文化祭も遠足もネット上という「ネットの高校」はなぜ設立されたのか

ネットの高校、はじめました。 新設校「N高」の教育革命
崎谷実穂:著
角川書店

あらすじ

N高等学校。
略称ではなく、正式名称である。
本校の所在地は、沖縄県うるま市にある離島・伊計島。
しかし、生徒は日本全国に居住している。
N高は校舎へ通う全日制ではなく通信制高校だ。

生徒たちは好きな時間、好きな場所でスマートフォンやタブレット、PCなどの端末を使って受講し、レポート提出を行う。
生徒同士、教員、講師などのコミュニケーションはSlackによるチャットで親交を深め、必須科目以外に課外授業として多彩な授業が用意されているほか、インターネット上の文化祭、ネット遠足(!)、さらにさまざまな部活動を行うこともできる。
ネットの高校だからN高なのである。

生徒たちはインターネットやIoT機器を駆使して学校生活を謳歌するが、必修であるスクーリングはエメラルドグリーンの海を目の前にした校舎で行われる。
同じ学び舎に集うことで、ふだんは画面越しにチャットでやりとりしている友だちが「本当にいたんだ!」と感激する経験は、学校に通っているという実感を味わうことができる。

「通信制高校は不登校だった子が行くところ」というネガティブなイメージを払拭し、開校5年で在校生が1万6000人を超えるという快挙を成し遂げた、革命的な学校が誕生した。
その誕生は、あるひとりの思いつきから始まった。
「ニコニコ動画」で一世を風靡したドワンゴとKADOKAWAがなぜ学校を作ろうと考えたのか。
ドワンゴの取締役である志倉千代丸氏の思いつきがやがて形を成し、さまざまな人を巻き込んで学校設立という事業へ漕ぎ着けた一部始終を詳細な取材により綴ったドキュメント。

ニャム評

ドワンゴとKADOKAWAが作ったN高というのは、なんとなく気になっていました。
それがついに「N中」もできたというのでいろいろ調べてみたところ、なんだかすごくおもしろそう!と思ったのです。
私事で恐縮ですが、我が家のニャ娘はのびのびと育った結果、公立の学校教育方針にはどうも合わないようで、現在小学3年生ですが毎朝「学校に行きたくない!」と叫びながら登校しています。
あれだけ意思表明しながら元気よく登校するのはえらいなあと感心するのですが。
とはいえ近い将来、公立校へ通い続けるのは難しいかもと覚悟しているので、「居住区域内の公立学校へ通えなくなった場合」の次善策として、近所のフリースクールや家庭学習などを調べています。
その過程でN中の情報を見つけ、ネットで勉強できて履修証明も取得できるのはいいなと思いました。
N中が気になっていたところで、近所の本屋さんをぶらぶらしていたら本書が目に入り、さっそく手に取ってみた次第です。

本書は5章で成り立っています。
第1章「N高ってなんだ?」ではN高等学校の学習要項や受講スタイル、課外授業など大まかな説明があり、第2章「N高のリアル」では実際に受講している生徒たちへの取材を通してSlackによるやりとりの実情、単位のための勉強方法などを紹介、第3章「N高のはじまり」ではN高の考案者である志倉千代丸さんが学校を設立するまでの軌跡を記し、第4章「N高の考えかた」ではドワンゴ会長の川上量生(かわかみのぶお)さんへのインタビュー、そして第5章「N高の未来」では校長の奥平博一さん、「クラスジャパン教育機構」代表理事の中島武さん、株式会社KADOKAWAの角川歴彦会長などの言葉を紹介しています。

N高の創立者たちを中心とした取材による本なので、当然ながらN高のいいところだけがクローズアップされ、N高礼賛が中心の内容です。
これはまあ当然そうだろうと思いますし、しかし実際はこの本に書かれていることばかりではないでしょう。
通信制という特性である以上、あくまでも学校のカリキュラムを完遂できるのは受講者自身のやる気に依るところが大きいと思います。
本書でも触れられていますが、学校へ毎日通うほうが学習を続けやすいのであれば、全日制へ通ったほうが楽だろうと感じます。

通信制の最大のメリットは、期限内であれば場所や時間を選ばず自分のタイミングで受講できることです。
通信制の学校はもともと、就労しながら勉強したい人が多く利用していました。
近代では不登校で通学できなくなった子供たちが履修証明を取得するために選択することが多くなっています。
N高も、中学校で不登校だった子がたくさん入学したそうですが、そこで自分がやりたいこと、興味を惹かれたことを見つけると、これまでの引きこもりがうそのように自分から行動していったという例が紹介されています。
たとえば、N高のチャットで仲良くなった友だちに会いたくて、それまで自分で行動できなかった子がアルバイトで旅費を貯め、北海道の友だちへ会いに行ったというエピソードが語られていました。
N高はきっかけにすぎず、なにか自分を突き動かす出来事があればそれに向かって飛び出せるということです。

子供の登校や進学で悩む保護者にとっては、N高のキラキラした逸話だけを目にすると過剰な期待をしてしまうような危惧を覚えますが、あくまでN高は器を用意しているだけにすぎません。
「N高に入れればうちの子も行動的になる」というような短絡的な希望ではなく、「N高という新しいチャレンジがどのように成長していくか」を見守り、N高という器が子供の特性や興味とマッチしているか、一歩踏み出すきっかけになりそうかということを親子でじっくり見極めることが肝要といえます。

本書はN高の輝かしい将来性や最先端の学校様式などを華々しく描いてはいますが、この学校を作ろうと奮闘した人たちの話は非常に興味深く、その熱意には心を打たれました。
子供の進路としてN高を視野に入れたとき、N高がどうして作られたのか、N高設立を目指した人たちがどんな思いを持って取り組んだのか、それを知ることは非常に有用です。
「子供たちに素晴らしい教育を」と本気で願った人たちの奮闘記として、ぜひ手に取ってもらいたい一冊です。

KADOKAWA・ドワンゴが創るネットの高校
学校法人角川ドワンゴ学園
N高等学校・S高等学校

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