つぶやき

ライブをスマホで撮影するのは著作権法違反か。著作権の「親告罪」について考えてみる

Hello world!
あなたの心のおとなりさん、ニャムレット(@nyamletblog)です。

rockin’on.comにて、Foo Fightersのライブでクリス・ノヴォセリックが登場し、Nirvanaの「Molly’s Lips」をデイヴ・グロールらとともに演奏したというニュースがUPされていました。

クリスもデイヴもともにNirvanaのメンバーで、ニルヴァーナ全盛期はリアルタイムでガンガンCDを聴きまくっていた私にとってかなり胸アツなニュースでした。
これは観客もそうとう盛り上がっただろうと思ったところ、会場にいた観客がスマホで録画した動画をYoutubeにUPしていました。
さっそく視聴して、その盛り上がりに再びグッときたのですが、これが日本だったら叩かれまくってるんだろうなぁとも思いました。

さて、この動画は著作権法違反になるのかどうか、という話です。
これが日本であった場合。
著作権は親告罪なので、権利者がサイト上から取り下げたり、動画自体を削除するよう求めたりすれば、Youtubeや動画保持者は要求に従わなければなりません。
とくにおとがめがなければ、問題ありません。
親告罪とは、被害を受けた者が加害者に対して告訴することで、一般的に犯罪と呼ばれるものは非親告罪と呼ばれます。
非親告罪は被害者の告訴がなくとも、公訴(検察が被疑者に対し有罪判決を求めること)を提起できる犯罪のことです。
つまり、親告罪とは、世間的に見て「犯罪だ!」という内容でも、被害者が告訴しなければ検察は公訴できないわけです。

しかし、この動画に関連する著作権はアメリカ人が保有するため、アメリカの著作権法が適用されます。
アメリカでは著作権は非親告罪なので、被害を受けた者の告訴の有無に関わらず、公訴が適用されます(普通の犯罪と同様に扱われるということです)。

今回の「Molly’s Lips」という楽曲はヴァセリンズというバンドのカバー曲なので、Googleによると作曲家はユージーン・ケリーとフランシズ・マッキーとなっています。
この楽曲がリリースされたのは1988年とのことで、著作権は有効です。

また、実演家(演奏やパフォーマンスをする者)には著作隣接権という権利があり、今回の演奏はFoo Fightersのメンバーとクリスなので、著作隣接権は彼らに属します。
今回、ニュースになった「Molly’s Lips」の演奏は、詩曲の権利と演奏の権利が発生するわけです(どのように展開するかによってさらに権利が発生する場合もあります)。

しかしアメリカの著作権法には「フェアユース」という制度があり、いくつかの例外が定められています。

フェアユースの大まかな例を見ると、「ライブを録画する」という行為は犯罪ではないかと思います。
しかし海外のフェスやライブのニュース映像などを見ていると、ほぼみんなスマホをステージにかざしていますよね。
なんだありゃ。
the pillowsのライブも「フリクリ」以降、海外ファンが増えて、東京のライブにはいつも海外のお客さんが一定数います。
そしてけっこう気軽に動画を撮っています。
けしからん。
とはいちおう言ってみるものの、個人的にはそれほどたいした問題とは思っていません。

アメリカの事情はわかりませんが、日本においては著作権法違反は親告罪なので、権利者が告訴しなければペナルティは受けません。
そして、日本の著作権法でも「スマホで撮影した、著しくクオリティの低い動画」に関しては、実質的には告訴されにくいのではと思います。

著作物とは「思想または感情を創作的に表現したもの」という定義があり、スマホをかざして録画したような動画は、思想または感情を創作的に表現したものには当てはまりません。
よって、この動画自体に著作権は発生しません。
しかし、このライブがたとえば完全シークレットな内容で、のちにDVDやオンデマンドで有料公開されるような場合、そのライブで行われた内容自体に情報としての価値が生じます。
これをもし、DVDやオンデマンドで発表する前にインターネットで公開してしまったらどうでしょうか。
このライブでどんなことが行われたのか、それを知りたいという欲求はこの動画により満たされてしまうため、DVDやオンデマンドへ課金する購買意欲が激減し、多大な機会損失となります。
このような場合には権利者が被疑者を告訴する可能性が非常に高まります。

日本と世界での著作権に対する考え方は根本的に違うようですが、アメリカなどではおもに「財産権」(著作物によって利益が生じる、その利益を手に入れる権利)が重要視され、日本では「著作者人格権」(人格とはそれを作った人自身を表すということ、その人格が損なわれないよう守る権利)が重要視されているようです。
金銭が直結するので、アメリカでは非親告罪として扱われるみたいですね。
日本でももちろん、著作権侵害による金銭的な被害は多発しています。
記憶に新しいニュースといえば「マンガ村」でしょう。
マンガを無断でスキャンしウェブサイトへ無料公開し、マンガの売り上げに甚大な損害を与えたとされています。
また、このサイトでは広告を貼っていたので、違法に使用したマンガで広告収入を得ていたという二重の悪事をはたらいていたわけです。
もちろんこれは完全アウトですね。
なぜもっと早くに取り締まれなかったのか、もっと政府がお金をかけて追及してもよかったんじゃないかと個人的には感じました(クールジャパンとか言ってるならね)。
また、映画を動画撮影してウェブサイトに公開するバカな人も昔はいましたが、現在は発見した場合10年以下の懲役もしくは最高一千万円の罰金、あるいはその両方としています。
日本国際映画著作権協会のホームページによると、「劇場盗撮型の窃盗」において下記のように明記しています。

法律制定:アジア太平洋地域において、香港及び日本では、警察等による劇場盗撮者の逮捕及び起訴が可能な法律が制定されています。

映画著作権について

これは協会が国に働きかけて法制定したようですね。
先に述べましたが、作品自体が「その内容、ストーリーに価値がある」場合、その内容自体に需要があるので、画質や音質が悪くてもタダで見られるなら見たいと考える人は一定数います。
そして、ネットなどである程度見てしまったら、公式のコンテンツを見なくても満足してしまうのです。
それにより、劇場へ足を運ぶ、DVDを買う、DVDをレンタルする、テレビで視聴する機会が失われ、多大な損失を被ることになります。

それでは、ライブを録画した動画も違法のはずだ!となりますが、そこは著作権者が訴えていないので、具体的な判例がありません。
重複しますが、著作権法は親告罪なので、権利者が提訴しないかぎり犯罪にはなりません。
そしてなぜ提訴しないかといえば、提訴するほどの損害を被っていないからです(いちいち取り締まったところで利益が上がるわけでもない)。
さらに、権利者(アーティストやマネジメント)がそれをマイナスに捉えるよりも、プロモーションと転じたほうがプラスになると考えているからです。
これに関しては、著作権者によって捉え方が違うため、人それぞれというしかありません。
撮影をものすごく怒るアーティストもいれば、別にどうでもいいと思っている人もいます(最近は後者に傾きつつあると感じます)。
音楽家やパフォーマーは人気商売なので、「動画を撮りたいと思うほど好かれている」ことが非常に重要です。
さらに、これは私見ですが、ライブ動画を見ると、「自分もこのライブに行ってみたい」と思わせる効果があります。
いわば「お金をかけずに他人が勝手にやってくれるプロモーション」とも考えられるわけです(かなり劣悪なプロモーションですが)。

日本はとってもお行儀のいい国で、ファンがファンを取り締まるみたいな、よく訓練されたファンだなと思ったりもするのですが、時代の変遷とともに既存の概念も少しずつ変化していくのではないかと思っています。

ピロウズのライブには海外のお客さんが多くて撮影もしている、と先述しましたが、さわおさんのインタビュー記事でもその話が出てきていました。
アメリカツアーの話だったのですが、まさに「アメリカと日本のファンは全然違う」という話をしていて、とても興味深かったし、インタビュー後半で語っている「音楽をタダと思ってないファンがついてるというのは、幸せなことだなと思います」という言葉が個人的にはとてもうれしかったです。
たぶん、やみくもに「動画を撮るヤツは犯罪だ!」っていう単純な話ではなく、そもそも音楽に対してリスナーはどう向き合うのか、という、もっと根源的な話ではないかなと感じています。
そんなさわおラブなバスターズの私は、犬のようにさわおさんについていきます。どこまでも。
ちなみにバスターくんは、犬じゃなくて熊だそうです。
昔、本人に聞いたことがあるので本当です。
「バスターくんは熊だよ。だって二本足で立ってるでしょ?」とおっしゃっていました。笑


劇場版「フリクリ オルタナ/プログレ」Song Collection FooL on CooL generation

余談ですが、「ラジオの文字起こしは著作権法に抵触するか」ということについて、下記の記事が一定数のアクセスを集めているようです。
が、個人的にはこんなもの、個人が勝手に感想を言っているだけでなんの根拠もない記事だと思っています。
記事内でニッポン放送とTBSラジオの担当者のコメントと、法律家のコメントを掲載していますが、これからはすべて「個人の感想」であり、判例に基づいた話でもなんでもありません。
勝手なこと言ってるなくらいにしか思いませんでした。
私は「デミロック」というブログの愛読者で、デミさんがラジオの文字起こしをしてくれるのを大変重宝しています。
そして先日は、記事を読んで実際にラジオで聞きたいと思い、タイムフリーで番組を聞きました。
こうやって番組の私設公報をしているのって、いいじゃん。って陰ながら応援しております。
ただ、番組からサイト記事の削除を求められたら、応じるしかないですけどね。