バジーノイズ
むつき潤
小学館
あらすじ
マンションで住み込みの管理人をしながらデスクトップミュージックを制作し、誰にも聞かせずひとりで楽しんでいたキヨスミ。
その音はしかし、キヨスミの上の階に住むウシオに聞こえていた。
たったひとりだったキヨスミの世界に、突然割り込んできたウシオ。
ウシオはキヨスミの音楽を熱烈に支持し、なんとかしてその音を世間に広めようと東奔西走する。
キヨスミは自身の音楽を世間に売り込もうという意思はなく、「ただの趣味」だと言い、ウシオの行動を迷惑がっていたが、ウシオの熱意に動かされ、少しずつ外の世界へと足を踏み出していく。
ニャム評
まず、なんといっても絵がいいです。
絵と背景の雰囲気。
それだけで独特の世界が構築されています。
物語は、コンピュータで音楽を制作する青年・キヨスミと、アパレル業界で働くテンション高め女子・ウシオが出会い、音楽を世に広めようとしていく姿を描いています。
キヨスミの音楽はオシャレで心地よく、なんとかして世間に広めたいとウシオは思いますが、当のキヨスミは完全な趣味、自己満足としてしか制作していないと断言。
それでもじっとしていられないウシオは勝手にキヨスミの演奏を動画に撮ってSNSにアップし、やがてそれがじわじわと広がっていきます。
承認欲求をあえて持たない「スマートさ」を装うキヨスミと、SNS拡散で周知を狙うウシオの行動は、いまの20代の空気感をきれいに切り取っているように感じます。
物語の筋は音楽なので、演奏シーンが頻繁に出てきますが、その描写がすごくいい。
音楽描写が素晴らしいマンガといえば「のだめカンタービレ」ですが、本作も演奏シーンがことに優れています。
クールで醒めているふうなキヨスミですが、彼が音楽を奏でているときの描写は、その空間がポップな心地よさで満たされているのがひしと感じられます。
目で見ているのに、そこに音楽が流れているのが見えるような、不思議な既視感をおぼえます。
キヨスミがどのように音楽界へ踏み出すのか、そしてもうひとつの軸はキヨスミとウシオの関係がどうなっていくのか。
ウシオはキヨスミに恋をしているのですが、物語でのラブ要素は全体の3%くらい(ニャム比)という薄さで、「恋愛系」というにはちと弱いというか、そのあたりもいまどきっぽいなぁと感じます。
ドロドロとか熱血とかいうものとは無縁の、するーっとした空気のなかでキヨスミの世界が進んでいくような、でもそのデジタルな日常にウシオという「ノイズ」が介入することで、その世界が小さく揺れ動き始めるような、新しい感覚の物語です。
阿部共実「ちーちゃんはちょっと足りない」「月曜日の友達」というマンガをご存じの方には全力でオススメしたい作品です。
「月曜日の友達」もポエティックで浮遊感のある名作ですが、あの世界に通じる空気が本作にもあります。
つづきが気になる!!という猛烈な欲求はないのですが笑、スピリッツで毎週楽しみにしている作品です。